イチゴのワンポイントアドバイス

 イチゴのワンポイントアドバイス

 

 

まえがき

 

弊著「施設野菜・ワンポイトアドバイス」の”序に替えて“にも記したように、施設野菜栽培を専門とする農家は、それぞれの野菜の栽培と経営においては「プロ」で ある。「釈迦に説法」という言葉があるようにプロに細かいアドバイスは無用である。 とくにイチゴは専門度が高く、通常の栽培技術もマスターせずに、新しく取り組むことすら無謀な作物である。 しかしながら、イチゴの生産者がなんの問題もなく栽培と経営を行っているとはと ても思えない。この書はそれらの「プロ」に一つか二つのプラスアルファーを加えて いただくためのものである。千差万別の「プロ」の要望に答えるためには誌面が不足 である。求める「ワンポイント」がないときは巻末の筆者の連絡先に質問をお寄せい ただきたい。

 

新井和夫

 

 

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エース会は、全国各地で「三菱ケミカルアグリドリーム農ビ」をご愛用いただいている施設園芸生産者と、 研究・普及機関、販売店、代理店並びに三菱ケミカルアグリドリーム(株)を結ぶ会です。 エース会では、施設園芸経営の発展をめざして、技術の指導、講演会や研究会の 開催、慣報誌の無償提供等を行い、これらを通してみなさまとの情報交換を行っ ています。

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ポット育苗のコツ1 ポット育苗の効果

 

促成イチゴの育苗法が様変わりし、いろいろな育苗法が実用化されている。しかしながら一部で行われている「無仮植育苗」を除けば、基本は同じ「ポット育苗」である。

 

●ポット育苗がなぜよいのか

トマトやキュウリも昔は地床育苗であった。それがプラスチックの発達でポット育苗になったが、だからといって苗の生育が良くなった訳ではない。潅水ムラはできるし地温は下がる。生育も地床よりは 遅れる。その不都合を補って余りあるのが定植時の活着の良さと、苗取り・運搬・定植の省力化だったのである。生長による苗間隔の調節も、間引きや植え替えをしなくてもできるようになった。地床育苗 からポット育苗へ移行したのは自然の成り行きで あった。

 

●イチゴのポット育苗の始まり

イチゴはトマトやキュウリのように、ポリポットができてもすぐには地床育苗から変わったわけでは ない。露地の地床育苗でも十分苗ができる上に、10アール当たり一万本もの苗数を必要としたからである。 そのうえ苗取り、鉢上げ育苗期は真夏であり、日に 二~三回の潅水も必要で、苗の生育も良くないとあれば、定植時の省力や活着の良さだけではポット育苗をする意味も少なかったのである。 イチゴのポット育苗は、トマトやキュウリとは まったく別の理由で始まったのである。

 

 

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昭和51年のある日、筆者の研究室(注農水省野菜試久留米支場)へエーザイ生科研の社員二人が訪れ、次のような話をされた。 「昨年、台風で水につかったイチゴ苗が枯れそうになった。なんとか助けたいとポットに移植し、根の 回復のためにキッポをかけた。苗は助かり、植物体 は小さいながらも花が咲き収穫があった。ところが 普通の苗より収量は少なかったが収穫期が早い。早出しのイチゴは値段が高いのだから、収穫期の早さはそのままで、なんとか収量が普通並に多くならな いものだろうか」。 筆者の脳裏にひらめくものがあった。すぐに研究を開始するとともに九州各県の試験場とも連携を取って、1~2年の間にポット育苗の基礎理論を完成したのである。

 

●ポット育苗の効果

野菜の早出しは農家の夢であった。イチゴでも久能山の石垣イチゴが早くから行われていたのはその ためである。むろん高価に取引されるからでもある。 しかし、ただ暖めるだけではイチゴの早出しは限界 があった。花芽の分化に早さの限界があるからであ る。イチゴの花芽は、低温・短日・少窒素の条件で 生じるから、自然の環境ではそんなに早くはならない。高冷地育苗や「ずらし断根育苗」などは少しで も分化を早くする育苗技術であった。筆者がハタと気がついたのはポット育苗では窒素が切りやすいと考えたからである。12センチのポリポットで育苗する として中に入る培土はたかだか0.7リットルである。少な い土なら肥料が切れやすいのは当然である。ここに 他の野菜にはないイチゴのポット育苗の効果がある。 すなわち花芽分化を早くする効果である。

 

●ポット育苗の普及

ポット育苗では肥料とくに窒素が切れやすいから イチゴの早出しができることはすぐ明らかになった。

 

 

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早出ししか生きる道のない九州のイチゴ農家は色めき立って短期間に90%以上の採用率となった。高冷地育苗もせずに11月下旬から「はるのか」(当時 の主要品種)の収穫が始まるポット育苗は儲からな いほうが不思議である。苗が多数必要であろうと、 夏場の潅水が大変であろうとこぞってこれに取り組 んだ。関東などの競争相手が、情報はキャッチして もその面倒さのために採川が遅れている間に着々と 早出し産地の地位を確立した。品種が変わっても今に至るまで九州が早出しで優位に立っているのは、早くからポヅト育苗を採用したからに他ならない。 時を経て九州以外の産地もポット育苗を導入する ようになり、現在では促成イチゴで地床育苗するの は前述の無仮植育苗などむしろ少数派になってしまった。まさに今昔の感がある。

 

 

 

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ポット育苗のコツ2 花芽分化を早くする方法

 

前にも述べたように、イチゴの花芽分化を起こさ せるのは短日・低温・窒素切れである。では、これらのうち、どれでもいいから一つの条件を与えると 花芽ができるかと言うと、そう簡単にはいかない。 たとえば夏の暑いころ短日を与えても花芽はできない。短日処理で花芽ができるのは、ある程度涼しく なってからである。それでは低温だけでは花芽ができないものであろうか。これはできるのであるが12~13℃以下とかなりの低温でなければならない。 低温と短日が同時にあると比較的高い低温(?)で 短日処理が効いて花芽が分化する。短日が効く温度 の限界は品種によっても異なるが、25℃くらいで あろう。 ややこしいことに低温・短日両条件とも、窒素切れのときに良く効くのである。そして窒素切れだけではどうしても花芽の分化は行われないのである。

 

●窒素を切る時期

ポット育苗は窒素を切って花芽分化を早くする技術であるから、自然のままの日長や温度の条件では 何時やっても花芽ができるとは限らない。ある程度 の低温・短日になってからであり、その時期は関東から九州に至る平地では九月上旬とみられる。 日長が一番長いのは六月下旬の夏至なので、九月になるとかなり日が短くなっている。温度はまだまだ高いといっても、盛夏よりはましで、どうにか短 日が効く条件になっている。このぎりぎりの低温・ 短日を利用するため、苗の方は十分に窒素を切って 待ち構えていることになる。日の長さは毎年同じで

 

 

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あるが、温度の方は毎年変わる。だからいくら窒素 を切って待っていても八月下旬から九月にかけて、 いわゆる残暑がきびしい年には分化が遅れ、低温の 年には早くなる。これがポット育苗(窒素を切るだ けで花芽分化させる)の泣きどころであり限界であ る。もちろん、七月や八月に分化させることは不可能である。 さて窒素を切る時期であるが九月十日ころの分化 が平均的だとすれば、八月下旬には切れている必要 があろう。

 

●窒素の切り方

四号のポリポットには0.7リットルの土が入る。土の量 が少ないから窒素が切りやすいのであるが、それでも水耕栽培のように、今日まで効いていて明日から 切れる、という訳にはいかない。切れる時間が必要 だ。与える肥料や、使う土、苗の大きさなどで切れ る時間は異なるが、平均三週間とみればよかろう。 八月下旬の三週間前は八月初旬となるが、切れのよ いところで七月いっぱいということにしている。七 月三十一日までは速効性の液肥なら窒素の追肥をやってよい。それも成分で一回一ポット30ミリグラムぐ らいにしておいた方がよい。成分で多く与えたり、 緩効性の窒素をやったりしたら失敗する。

 

●親が死んでも

八月に入ったら窒素の追肥をしてはならない。「親が死んでも八月の追肥はやるな」と繰り返し指導し てもやる人がいる。苗が貧弱な場合はついやりたく なるものらしい。やってもいいけれどもそれでは早穫りの計画が無になって、地床育苗と同じになってしまう、「肥料をやらないのに切れてこない」、と言う人が いる。今どきそんな不思議なことはあり得ない。こういう人はたいがい土の上にポットを並べている人 だ。ポットの底をみると根が出ていて、下の畑の土

 

 

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からしっかり肥料を吸収しているのである。ポット は排水の良い波板などの上に置いて畑土とは遮断する、というポット育苗のコツの一つを守って欲しい。 波板を買う費用を節約する場合に多い失敗である。 もっと不思議な話をしてくれる人もいる。普通八 月二十日ごろから窒素切れで葉の緑色が淡くなり、やがて下葉は黄色味を帯びてくるが、そのころから少しでも葉温を下げ分化を早めるために遮光をする (寒冷しゃ黒300番)。ところが「遮光をすると葉 の色が緑を増し、窒素が効いてくるようだからやら ない」と言うのである。限られたポットの中での話 である。一度切れ始めた肥料が遮光をやることで増 えてくるものなら肥料工場はいらない。イチゴの ポット育苗で窒素肥料を造ればよいことになる。 これはちょっとした解説が必要かも知れない。遮光で緑が濃くなるのは事実だが、もちろん窒素が効いてきたわけではない。夏の強光で葉緑素が分解し ていたものが、遮光により止まったに過ぎない。なにごとよらず理論以外の現象は、小説以外では起こ らない。 結論として八月下旬には窒素が切れ、分化までの 間を遮光による葉温の低下を計れば、その年の気温 に応じた一番早い花芽分化が迎えられるのである。

 

 

 

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ポット育苗のコツ3 早期出荷と多収の両立

 

今ではそんなことを言う人はいなくなったが、昭和五十年代のポット育苗は、収量が少ないことが最大の欠点とされていた。面倒くさくて収量が少ない のでは多少早く収穫できても割が合わないからと、 もともと出荷の遅い関東各県ではポット育苗の採用を見送ったほどである。筆者ら理論では、早くかつ多収となるのが普通なのに、理論と実際のギャップはいつの時代でもあるものである。

 

●常識がじゃまをした!

地方によって、立春から何日目にジャガイモを植えると良い、というような「常識」は数多くあり、 そのほとんどは正しいとみて良い。しかしジャガイ モをビニールハウスで栽培するとなると話は別だ。 常識にとらわれていてはビニールハウスを使う意味がまったくない。そんなことは誰でも気がつくもの なのだが、ことイチゴのポット育苗についてはそうはいかなかった。イチゴの育苗については、イチゴ の研究者や農家に昔からしみついた「常識」があり、 ポット育苗という新しい技術を採用する場合でも、その常識にこだわるあまり、正しいやり方をねじ曲 げてしまうのである。正しいポット育苗の普及には、その常識が少なくとも数年から10年近い遅れをまねいてしまった。

 

●大苗は多収のもと

促成イチゴの地床育苗について次のような常識が 存在した。

・肥料の効き過ぎはタブー(花芽が遅れるため収穫 開始が非常に遅れる)。

 

 

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そのため促成イチゴの育苗に当たっては、肥沃過ぎない畑を捜し元肥の量を一定以下に抑えて慎重に 行った。ねらいは育苗後半の窒素切れである。とこ ろがもう一つの常識が存在した。

・大苗は多収のもと

苗を大きくするには肥料が無くてはならぬ。だから窒素切りと大苗とはなかなか両立しなかったので ある。涙ぐましい努力が続いた。断根やずらしで窒素の吸収を抑えようとしてみたり、窒素が切りにく いとみると、山上げをしたり、遮光をしたり、果ては氷水を葉にかけたり、育苗床を水浸しにしたり…。 ポットで育苗してみるとあれほど苦労した窒素切 りによる花芽分化の促進は、驚くほど簡単にできて しまった。味を占めたイチゴ関係者は研究者といわず農家といわず窒素切りのみに専念して大苗を作ることは忘れてしまった。むしろ大苗を作るために必要な肥料までもやらないようにしてしまった。結果としてポット育苗は収穫は早進化されるが、小苗のために収量は少ない、という誤ったやり方が全国に広がってしまったのである。

 

●正しいポット育苗

前述のようにポット育苗は、土の量が少ないため に窒素を切りやすい。逆に言えば育苗の初期に十分 肥料を効かせて大苗を作っても三週間以上の時間さえあれば窒素は切れる。つまり花芽分化の早進化と 大苗(多収)の両立が可能な育苗技術なのである。 それが「肥料の効き過ぎはタブー」とする地床育苗 の常識が根強かったばかりに正しい普及が遅れてし まった。 正しいポット育苗のやり方は六月下旬に大きな子 苗をポットに植え、元肥に100ミリグラム程度の速効性 窒素をいれ、その後七月下旬までに30ミリグラムづつ3回くらいの追肥を液肥で与えてまず大苗を作る。そ の後はリン酸やカリ肥料のみを与えて八月下旬には 窒素を切り遮光をして九月上旬の花芽分化を迎える …という手順が基本となるのである。

 

 

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ポット育苗のコツ4 その他2~3のコツ

 

 

●山砂でなくてもポット育苗はできる

鉢土の問題も最初から誤解の多かった点である。 筆者らが「普通の土が一番良い」と言っているにも かかわらず山砂の使用が多い。山砂でできないこと はないのだが、返って育苗が難しくなる。それは山砂でトマト苗を作る場合の困難さと似ている。 そもそも何のために山砂なのかを考えてみると多分肥料が切れやすそうに見えるからであろう。たしかに水で洗い流すには好都合かも知れないが、窒素 切れは水で流さなくても可能である。それはイチゴ 苗が吸収してしまうからである。苗に吸わせてしまうものなら土はなんでもよいはずであり、充実した大苗を作りやすい「普通の土」(田土・畑土・山土な ど)が良いことは自ら理解できるというものであろう。

 

●徒長苗は大苗でもダメ

大苗とはどの程度の苗なのかの質問もよく受ける。 根を含めて30グラム以上の苗、と答えることにしてい る。クラウンが老化するほど長期育苗したものでな ければ50グラムあっても構わない。クラウンの直径は 12ミリ以上は欲しい。こんな大苗を四号ポットで作 ると、ポットをタテ・ヨコびっしり並べて置くと混 み合って徒長してしまう。徒長苗が悪いのはトマ ト・キュウリと同じで、いくら大苗でも価値がない。 ポット間隔を十分あけて、がっしりとした大苗(筆者は鬼瓦のような苗と言っている)を作ってもらい たい。

 

 

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ちなみに下葉は病虫害にやられたり、花芽を遅ら せる可能性もあるので次々に欠いていき、八月二十 日ごろまでは展開葉四枚ぐらいに揃えておく。下葉を欠くとクラウンが太くなり、大苗ができやすいと 言う人もいるが筆者は確かめたことはない。

 

●定植前後の注意

花芽分化したのを確認したのち定植することが ポット育苗のいくつかの重要なポイントのうちの一 つである。定植するということは直ちに元肥の窒素 を吸うことであるから、未分化のものを植えたら回 れ右をしてもとのもくあみ、未分化の苗のままに なってしまう。先に述べたように、気温によって分化の日時は変わってくるのでいつ定植したらよいか も毎年変わる。必ず普及所か農協か、あるいは自分で検鏡し、分化を確認してから定植してもらいたい。 分化したものはなるべく早く植えたほうが、花芽の充実や収穫の早進化のためには良いのであるが、面積が多い場合は一~二日で植えることが難しい。い ろいろな場合を想定して、分化した鉢にはうすい液肥の追肥をしてしまうことを標準的な技術としている。仮に何日か定植が遅れても、肥料と水さえあれば植えた場合と大差ないので植え遅れの害がほとん ど回避できるものと思っている。 定植したら潅水をしてもらいたい。当たり前のこ とかも知れないが、ポット育苗の苗は水が不足してもしおれないので、つい潅水を忘れがちになる。根が伸びず、収量が減る一つの原因は定植後の潅水不足である。植えて十日後には根鉢の周囲に白い根が どんどん伸びるくらいに十分な潅水をやってもらい たい。

 

 

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いつでも花芽ができる短日夜冷、暗黒低温育苗

 

窒素切りをして、感じやすくなった苗を人工的に 低温や短日を与え花芽分化をさせるのがこれらの 育苗法である。窒素切りは、大小のポットで行うか らポット育苗の一種と言える。 これらの育苗法が開発されたために、イチゴは一 年中いつでも好きな時期に花芽分化させ、花を咲か せ収穫ができることとなった。 温度や日長の処理をしない、いわゆるポット育苗 は、いくら上手にやっても十一月下旬よりは早い収 穫ができないから、もっと早く穫りたいと思ったら これらの育苗法によらざるを得ない。逆に言えば十一月下旬からの収穫ならば普通のポット育苗だけでよいことになる。

 

●短日夜冷育苗のポイント

やや低い温度のときに、短日を与えると花芽ができるという理論を実用化したもので、費用と労力は かかるが、花芽分化技術としてはもっとも安定して いると言える。ただ八時間の短日、13℃の夜温を多くは盛夏に与えなければならず、設備費と経費・ 労力はかなりかかる。育苗面積を小さくするため小さいポットやセルトレイを使ったり、人口培土を用いるなどの配慮も必要となる。大苗が望ましいがな かなか困難であろう。 もっとも花芽分化に適した条件を与えるため、窒素切りは普通のポット育苗ほど極端でなくても良く、 葉色がやや淡くなる程度で良い。夜温は15℃でも 20℃でも短日は効くはずであるが、温度が高いと

 

 

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花芽分化までに日数を要するようなので13℃~15℃ぐらいが良いであろう。分化後、少量の窒素を 与えたほうが良いのはポット育苗と同じである。処理をすれば一年中いつでも花は咲くが、植え出すハ ウスの温度が高いと収量・品質ともに劣るので暖地 では自ら時期が限られる。福岡県辺りで十一月初旬 の収穫が限界と思う。寒冷地では夏や初秋の温度に応じて早くても良く、寒地・高冷地では真夏の収穫 でも十分に良品多収が可能となる。(別掲「寒い地方 ほど儲かる超促成イチゴの不思議」参照)

 

●暗黒低温育苗のポイント

前者と同様にやや窒素切りした苗を低温のみ(暗黒状態)で花芽分化させる方法である。苗をコンテ ナにつめ、低温倉庫に入れるのが通常である。倉庫や労力に余裕があれば大苗の利用も可能である。コンテナは積み上げが可能なので、収穫果の予冷用の 家庭用低温庫でもかなりの本数の苗が処理できる。 低温だけで分化させるのであるから、短日夜冷の ように二○℃でも良いということはない。処理日数 の関係で多少異なるが12~13℃とする場合が多 い。 低温とは言っても十分生長できる温度であるから、 処理中に心葉が伸びてもやし状になり、株が消耗する。これを防ぐためのホルモンや赤色光の照射も工夫されている。 花芽分化は短日夜冷ほど確実ではなく、多い場合 は20%ほども未分化株が混じてしまう。これを防ぐには入庫前に窒素切りをするとともに寒冷しゃをかけるなど葉温を下げる予措(事前の処理)が必要 である。出庫後もいきなり暑いハウスに出さず、風通しの良い遮光下で二~三日ならし運転をして定植したほうがダメージが少ない。

 

 

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早出しイチゴの苗確保法

 

「ポット育苗の場合」

 

ポット育苗や夜冷育苗、低温処理などで、促成イ チゴの出荷時期が飛躍的に早くなっている。早い作 型には早期に苗を準備することが必要となり、栽培家は皆、頭を悩ましている。 イチゴの子苗を採るランナーは七~八月の頃に多量に増え、普通促成や半促成の苗に利用される。しかしながらポット育苗を上手にやるには、六月下旬 にかなり大きな小苗を揃えて必要本数確保しなければならないので、これでは間に合わない。もっと早 いランナーの発生を考えねばならない。

 

●ランナー発生の条件

イチゴのランナーは低温に十分当たって休眠からさめた親株を暖めた場合に早く発生する。必要な低 温量は品種によっても異なるが、5℃以下の経過時 間で1200時間以上であるから、関東では二月中 旬となる。十月に定植して低温に逢わせた親株を、二月下旬からトンネルなどで暖めてやれば一番よいことになる。親株にジベレリン(50ppm)をかけて やれば一層効果的である。

 

●ポット育苗の苗のとり方

ランナーには早い子苗、遅い子苗といろいろある から、必要な時期になったら大きさの揃った良い苗だけ選んで用いるとよい。ポット受けの場合は同じ 早さのランナーを、子苗が発根しないうちに(五月 下旬~六月上旬)ポットに受けて行くことになる。 ポット育苗の成否の半分以上は大きな子苗をいかに

 

 

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早く確保するかにかかっているわけだから、さっそ く実行してみよう。 親株床や子苗床のトンネルがけや雨除けは、今間題の炭そ病を著しく少なくする効果も認められてい るので一石二鳥である。

 

「短日、低温処理の場合」

 

短日夜冷や暗黒低温処理で育苗する場合は、ポッ ト育苗より一牌早く苗採りする必要がある。早さの 程度は処理時期と処理する苗の大きさにより段階的 に早くなるわけであり、六月下旬から四月まで遡る場合もある。

 

●基本はポット育苗と同じ

ポット育苗の場合と同様なトンネルだけのラン ナーの早出し法でも、数は少なくても早い子苗はで きるわけであるから、親株の数を増やせば八月処理 の育苗には十分対応できる。親株を500本使えば 平均十数本の子苗を採るだけで8~9000本の10アール当たり必要数が確保できるからである。 もうすこし早く、多数の苗を得ようとすればハウ

 

 

 

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スを利用することである。二月中旬に親株床にハウ スを被せるとよい。生長点が動き出したらジベレリ ン(50ppm)をかけることもトンネルの場合と同じ である。ハウスを効率的に利用しようと思えば、ポ リの大鉢(植木苗用のもの)に秋植えした親株をハ ウスに運び込んでもよい。ランナーが伸び、暖かく なったらトンネルに植え出す。

 

●逆転の発想、二年苗利用

寒・高冷地等では九月からの収穫も可能であるが、 このように早い場合は春のランナーでは間に合わな いことがある。いっそのこと前年の遅いランナー(七 ~八月発生苗を利用すれば苦もなく苗確保ができ る。ポットに植え土に埋めて冬越したものを春に育成、窒素切りして処理にまわす。多少老化苗になる が、花梗や芽の整理をすれば春採りの苗と同じように使用することができる。

 

 

 

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紫外線カット農ビをナスやイチゴの育苗に使う

 

紫外線カット農ビ(カットエース)は、病虫害を 抑制し生育収量を向上させる機能性農ビとして、大変有効な被覆資材である。ところが、ナスやある種の花きに使うと色が出なかったり、イチゴやメロンをミツバチで交配させようとするとハチが箱から出てこなかったりするので、これらの作物の施設栽培 には使わないでください、と繰り返し説明されている。

しかしながら、これらの作物にも灰色かび病や菌核病があり、アブラムシやスリップスも着生して防除が大変である。病気や虫の多くは苗の時代に苗に ついてハウスに待ち込まれ被害を増大させる。無病で虫の着いていない苗を定植することは、病虫害対策のスタートとして重要であることは当然である。 ところが考えてみると、ナスでもイチゴでも、苗の時代に果実を成らせるわけではない。実を成らせ ないなら紫外線は無くてもかまわない。苗の生育を良好にし、病虫害を回避するために紫外線カット農ビを使ってもなんの支障もないのである。各地の産地でこうした考えのもとに育苗ハウスにカットエー スを使う例はまことに少ない。ほんとうにもったい ない話である。

タブーとされているナスやイチゴにカットエース を使うことをおすすめする(ただし苗の時代だけ)。 イチゴでは雨よけのように使うと、今問題の炭そ病 の回避にもなり、一石二鳥の効果が期待できる。 育苗跡のハウスには定植することはできない。ト マトやキュウリその他のカットエースでの栽培が支 障なくできる作物を導入する必要がある。

 

 

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根の無いところにイチゴは成らぬ

 

●根を調べてみよう

収穫の終わったイチゴの株を10本ほど掘り取っ て、水で洗い、根を良く観察してもらいたい。半分でも生きた根が残っていた人は「合格」である。普通はほとんどの根が茶色に死んでいて、クラウンの 下の上根がわずかに白く生きていることが多い。誰でもイチゴを五トンも七トンも採りたいのはやまやまな のだが、そんな根では無理というもの。まさに「根の無いところにイチゴは成らぬ」なのである。

 

●なんで根が死ぬのか

イチゴの根が死ぬ原因は大きく分けて三つある。

 

(1)活着するまで十分潅水したか

筆者らのポット育苗法が普及して以来、その応用 も含めて大部分の苗がポットからハウスに植えられ ている。ポット苗は多少なりとも根鉢が形成されて いるから根痛みが少なく定植後の「しおれ」が目立たない。ここに落とし穴がある。忙しい時期だから しおれないイチゴには潅水がついおろそかになる。 そうでなくても活着したものと錯覚してしまう。こ れは大きなまちがいで、しおれないことと根が延び て活着したこととはおのずから意味が異なる。水不足のために根鉢から外へ出られない根はそのほとん どが春を待たずに死んでしまうのである。定植後二

 

 

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週間以内に根鉢の外へ白い根がどんどん延びるように十分定植後の潅水をしてもらいたい。

 

(2)根が肥料で塩漬けになっていないか

イチゴは他の野菜に類を見ないほど肥料の濃度障 害に弱い作物である。その上、大型の果菜類ほど肥料を吸収しない。それなのに収益は多いものだから 堆肥や肥料をどんどん与える。連作も重なるとEC も上昇し、弱い根は塩漬け状態となる。春まで根が 生きていないのも当然である。 肥料をどれだけやれるかは、土の状態によって異なり、深い作土で肥持ちの良い土の場合に多くやれる。また有機質肥料は化成肥料より多くやっても根は痛めない。これらを総合的に考えて元肥をやや少 なめに施し、追肥はうすい液肥で追って行くのがよいと思う。トータル成分量は標準的な栽培の場合、 窒素で30ミリグラム(10アール当たり)以下でよいはずで ある。

 

(3)しのびよる病虫害

新しい土で栽培を始めた場合は、意外に生育がよいものである。古いハウスで生育が悪くなる(いわゆる連作障害)のは前述の濃度障害と土壌病虫害で ある。病虫害も勿論根を腐らせる原因となっている。 クルミネグサレセンチュウやシリンドロカルポンな ど不定性病害菌がその主なるものである。別に地上部にも症状があらわれるイオウ病・タンソ病なども 根を枯死させることは当然である。 病虫害の対策はそれぞれ明らかにされているが、 太陽熱消毒がいずれの土壌病虫害にも効き、特にイチゴのハウスで効果が上がることは注目に値する。

 

●春まで生きた根を保とう

春に抜いてみたら根のほとんどが死んでいる、と いうことは多くの人がそうであっても正常ではない。 前述の三原因を除いて、白い根を最後まで保つこと が七トン採りの第一歩である。手で引張っても抜けな いような根張りを、晩春の株の片ずけ時まで保って もらいたいものである。

 

 

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イチゴの「太郎苗」は使えない?

 

イチゴ栽培にはいくつかのタブーがある。”太郎苗”は生産力が劣るから使ってはならない、というの も有名なタブーの一つであり、多くの技術者や生産者に信じられ、この苗が使われないことが多い。 本当にそうなのであろうか。

 

●総領の甚六

人間でも総領(長男)は人が善く、覇気が無い人が多いと、うとんぜられる風習があった。子供の数の少ない昨今では、ほとんどが「総領の甚六」であるから、まともな人間はいないことになってしまう。 長男が大切にされて覇気を無くすのは生まれたあとの環境のためで、その人本来の素質ではないだろう。 イチゴの”総領”は親株から最初に根をおろす第 一ランナーであり”太郎苗”といわれている。その昔 の研究によると、なるほど太郎苗の収量は次郎、三郎 の元気の良い苗より成績が良くないが、これも同じ 親の子、本来の性質ではないものと思える。

 

●総領は年齢が上

さて、素質が同じなのに良い、悪いが生じるのは、 その後の条件が異なるためである。当然のことながら太郎苗は早く根をおろす訳だから苗齢は古い。冬越しの親株から五月に発生した太郎苗は、苗の促成 栽培の定植期、九月下旬までに五ヵ月もの時間があ る。さらには太郎苗が親代わりとなって次郎、三郎 を養うから、古くて栄養を吸い取られた親株と同じ ような生理条件になり、根も老化する。成績が悪いのは当たり前といえる。この限りでは太郎苗は使わないほうがよいのである。

 

 

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●親株の多様化

昨今の促成栽培はポット育苗や夜冷ポット育苗で 定植期が一~二ヵ月前進した。またウイルスフリー 苗を親株として使うため、親株の定植が春に行われ ることも多い。さらに揃った苗を得るために親株を 10アール当たり500~1000株も使うことがあ る。これらの栽培の変化は、太郎苗といえども老化の心配の無いことが多い条件変化であり、昔のデー タは通用しないのである。

 

●大苗は増収…太郎苗の利用

株や根の老化が生じていない限り、大苗が増収に繋がることは多くの研究が示しているとおりであり、 一本の親株では一番大きい太郎苗を使わないてはない。ことにポット育苗やポット夜冷育苗では、育苗鉢が小さかったり花芽分化促進のために窒素を切っ たりするため、鉢上げ後の生育が悪く、苗の大きさは植えるときの子苗の大きさに支配されてしまうことが多い。大きい”太郎苗”は”総領の甚六”どころ か、強い味方になるのである。 前述のように太郎苗が親株化して老化していない 限り、積極的に利用してよい。いろいろなタブーは 先人の経験としてもっともなことが多いが、条件の変化を見逃すと無用なムダを犯すことになるから要 注意である。

 

 

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天井があってもイチゴは植えられる

 

 

促成栽培のイチゴでは、永い間、定植は露地に行うものとされていた。イチゴの定植は九月の中旬ごろ行われ、十月の二十日ごろまでの一カ月間は雨が 降ろうがヤリが降ろうがビニールの張ってない骨だ けのハウスで過ごすのである。早くビニールを屋根に掛けるのはタブーであったからである。 そもそも促成イチゴのビニール掛けは、どうして 十月下旬になったのであろうか。その理由は花芽の分化を順調に行わせるため、と言われている。自然の状態ではイチゴの苗は秋口の短日と温度の低下で 第一果房の分化が生じる。これは遅くとも九月下旬 には行われるから、いつビニールを掛けようが関係 ない。問題は第二果房の分化であり、これが十月中ごろ行われるから、この時期にハウスにビニールが 張られていると温度が上昇し、花芽分化が遅れる。 そのため、第二果房の分化が終わった十月二十日ご ろビニールをかけるとよい、とされている訳である。 ハウスにビニールを張る目的の一つは、たしかに 温度を上げることである。しかし温度を上げない張 り方もある。天井ビニールだけを風通しよく張り、 雨を除けて病虫害を回避し、生育・収量・品質を向 上させる「雨よけ栽培」などはまさにその典型であ る。そうしたところにイチゴを植えればイチゴのために悪かろうはずはない。「それでも花芽が遅れそう だ」と言う反論があるかも知れない。天井ビニールだけでも、中に入れば暑く感じることもたしかであ る。しかしこれは人間の顔がイチゴの芽よりもかな り高いところにあるための錯覚である。直射日光の下、イチゴの葉の温度を露地と天井ビニールの下で計ってみると、なんと露地の方が高いのである。サイドやつま面の通風を計れば、決してイチゴの体温 が天井ビニールで高くなることはない。したがって

 

 

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第二果房の分化にマイナスになることはないのは当然の理である。 筆者は昔から屋根の張ってあるハウスにイチゴを 植えてもよいと言ってきた。それは次のような理由 からである。

①長期張りのフィルムを使うことができ、張り替え の手間がはぶける。

②降雨による定植遅れが防げる。

③雨による畦の崩れがなく、肥料も流れない。

④病虫害が少なく生育がよい。

⑤収穫期が早まり収量も多い。

こう見てくると天井ビニールの下にイチゴを定植 することは、いいことずくめなのであるが、やはり 注意しなければならない点はある。一つには、ビニー ルは温めるためではないのでなるべく風通しよく、 中の温度が上がらないように天井のみに張ることである。

 二つ目は、雨が入らないので土が乾きやすい。定植直後から灌水チューブを配し、適度な潅水を忘れ ないことである。 省力が叫ばれ、フィルムを何年も持つものが出ている。イチゴも毎年ビニールを張り替える時代でも なくなるかも知れない。そうでなくても天井ビニー ルの下に定植しても益こそあれ、害が無いとなれば 大手を振って実行して見てもらいたいものである。 遅まきながら各地の試験場でこの検討が行われ、筆者の積年の主張が認められ始めている。

 

 

 

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イチゴのウドンコ病防除のコツ

 

昨年も今年も日本各地にイチゴのウドンコ病が多発し、どこへ行っても対策に大わらわである。

 

●予想された大発生

ところがこの病気の多発は予想できたのである。 事実筆者は各地の講演会でそれを予言し、対策を示してきた。病害対策の一番効果的な方法はどの病気 でも予防的防除の徹底である。筆者のいう対策を忠実に実行した人は、まわりの人を尻目に今ごろは高見の見物である。なぜウドンコ病の大発生は予見できるのであろうか。タネを明かせば何年か前二年つづきの冷夏があったからである。ウドンコ病は高温 に弱く、通常の夏であれば高温の八月ごろ弱って影をひそめてしまう。人の目にも見えなくなる。弱ったところを叩けばさらに弱るのはなにごとも同じであるから、上手な人はこの時期にウドンコ病の防除を行う。目に見えないのに防除を行うのはなかなかできないことであるが、そこがコツであるゆえんなのである。 高温で弱るべき病気が冷夏であまり弱らなかった のであるから、多少の薬散をやったとしても病害が多発するのは当然だったのである。

 

●対策はあるのか?.

病原菌をハウスに持ち込んで、今ハウス内で発生しているものを絶滅することはむずかしい。薬散で 少なくするのが関の山であろう。やはり、夏の苗の 間に絶滅させておかなければならなかったのである。 八月の育苗期から定植期まで苗床で週に二回くらい 十分量の薬を散布し、定植後ビニールをかけるまで

 

 

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もぬかりなく防除をしておく。そうすればビニール がけのあとは特に薬散をやらなくても病気は防げる のである。主要品種の「とよのか」はウドンコ病に 弱いし、「女峰」でも発生はみられる。夏の寒暖にか かわらず、育苗時防除の習慣を着けておきたいもの である。発生後のドロナワ防除では防げない病気な のだから。

 

 

 

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ディバーナリに注意 元肥窒素が多いほど損をする

 

イチゴの早出し栽培に拍車がかかってきた。筆者 のポット育苗を契機に、現在では何月でも花をつけ実を成らせることができる。 いろいろな育苗法があるが、窒素を制限し、低温に逢わせることは共通している。つまりバーナリ ゼーションで花を作っているのである。花ができてから定植する訳だから、頂花房の花が着かないことは少ないが、腋花房(第二花房)の発生はまちまちである。揃って遅れることも実に多い。これが元肥 窒素が多いことによって生じるディバーナリである。 追肥はいつでもやれるから、元肥を多くしてわざわざ損をすることはないと思うのだが、この失敗はあとをたたない。 ディバーナリは肥料の多いときにも起きやすいことを知っていれば決して生じないケアレスミス(不注意による失敗)と思ってよいであろう。

 

 

 

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寒い地方ほど儲かる超促成イチゴの不思議

 

 

●寒冷地でも施設栽培はいろいろできる

農業用のビニルが開発され施設栽培が始まって以来、早く、より早くといろいろな野菜の促成栽培が 試みられてきた。早さが高じると年の瀬を越して秋にまでも出荷期がさかのぼり、遅出しの出荷期と重なり合うようになっている。多くの作型が寒い冬に かかるから暖地が有利で、暖地を中心に産地が拡大 したのは当然である。 ところが、施設園芸が発達していろいろな野菜の冬の出荷があたり前になると、逆に夏の野菜が問題 になってきた。 夏は温度を上げる必要はないから、野菜の栽培は どこででもできそうなものであるが、種類によってはそうもいかない。多くの野菜は、ハウス栽培の多 い暖地では、夏が暑過ぎて生産ができなくなる。当然のことに夏でも野菜は必要であり、昔から夏の冷しい高冷地や東北、北海道の寒冷地で夏の野菜の生 産が行われていた。露地栽培が主体であったが、雨除けハウスの効果が認められて以来施設化が進んでいる。 寒冷地で儲かる施設野菜はいろいろあるのである。

 

●技術がおくれているから 儲かるイチゴの夏秋出し

ハウスの面積が日本で一番大きいイチゴだが、周年出荷体制は遅れている。ハウス栽培技術の発展で 半促成・促成栽培が増えた結果、十二~五月までの 出荷はどうやら確保されるようになったが、六~十 一月の間は出荷が非常に少ない。トマトやキュウリ

 

 

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のように、年中八百屋に並んでいるというわけにはいかないのである。 イチゴの”超”促成による早出しは、筆者らのポット育苗や、ポット育苗をさらに進めた夜冷・低温処 理などによって十二月よりさらに早い出荷が可能になってきている。九州や静岡などの促成栽培の産地は、これらの早出し技術を取り入れて秋の出荷を目指したのであるが、これには限界があることが判ってきた。それは花芽分化した苗を早い時期に定植してみても着果はするもののハウスの気温が高過ぎてだめなのである。果実が小さく、着色が悪く味が劣る。試験によると早出しの限界は十一月までといわれている。 育苗技術の進歩によって、イチゴを一年中いつでも花芽分化をさせることができるようになった現在、 大変面白いことが起きている。 なぜなら、今までイチゴの早出し産地といえば、 九州、静岡などの暖地だったのだが、暖地の秋のハ ウスはむろん気温が高い。そうするとある時期以前の早出しは暖地では不可能で、逆に寒冷地なら可能ということになる。今までの常識の反対なのである。 今まで寒冷地(高冷地や東北、北海道など)はイチゴ の早出し(促成栽培)では不毛の地であった。暖地の促成栽培の高値を横目で見ながら、その後を追って 半促成栽培や露地栽培をわずかにやっていたに過ぎ ない。だから目ぼしい産地もなかったのである。

 

●これから面白い寒冷地の「超」促成

イチゴの出荷が少ない夏から秋のシーズンは、当 然のことながら値段が高い。「赤い宝石」といわれるくらいである。主産地での生産ができないとなれば 外国から入ってくる。この輸入ものの品質がよくない。色、味、鮮度ともに満足できるものではない。 寒冷地の出番だと思う。品種・育苗法・栽培法の組 み合わせでいかようにも儲かるイチゴ栽培ができるからである。今まで少なかった寒冷地の施設園芸の 本命ではないかとさえ思える。まだ栽培は少ないが、

 

 

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それは儲かることを知らない人が多いことと、イチ ゴの作り方を知らないからではないかと考えられる。 やる気のある人、やる気のある産地には、いつで もワンポイントだけでないアドバイスをさせてもら おうと思っている。

 

 

 

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イチゴの暖房は一石三鳥

 

イチゴの促成栽培は無加温、多層被覆で行われる ことが多い。これはイチゴが元来低温性の野菜であ ることと、生育が遅いことが理由であるものと思う。 ところが近年、品種が「とよのか」や「女峰」のように品質重視のものに変わった結果、低温による果実の障害が見られるようになってきた。「とよのか」 の障害は、「色むら」と呼ばれ、低温と日照不足、多肥による過繁茂が誘因とみられている。「女峰」の障害は「頂部軟質果」と呼ばれ、低温多湿が原因とみ られる。 これらの障害は保温性の高いフィルム(ハウス ホット、サンホットなど)の多層被覆でも軽減されるが、より完全には暖房をするに越したことはない。 暖房の温度は最低5℃くらいでよいので、重油も少 量で済み、暖房機も小さいものでよい。暖房機が必 要以上に大きいと、初期投資がかかるばかりか暖房率もよくないので、停止時間が余り多くない程度の(いつも動いているような)カロリーのものを選ぶ必要がある。 暖房を行うことの効果は、障害果の減少のほかにもいろいろある。トンネルやカーテンを無くしたり、 少なくできるので、光線の透過が良くなり、湿度も 下がるので果実の肥大、着色を良くし、病害を減少させる。また倭化しにくく増収になる。なによりも 作業が楽になり、健康によい。 このように今まで余り行われていなかった促成イ チゴの暖房は、一石三鳥ともいうべき効果が考えら れるので積極的に導入してもらいたい。

 

 

 

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腰を曲げないイチゴ栽培 養液栽培のコツ

 

 

●儲かるのに面積が減る!

イチゴのハウス栽培は10アール当り300万~500万円の粗収入がある。上手な人は700万円以上 採るともいわれている。それなのに産地での栽培面積は一部の県を除いて減り続けている。どういう原因によるものであろうか?あちこちの農家に聞いてみると、腰を曲げたきつい姿勢が第一の原因とみられる。若者はつらい労働は避けたがるし、中高年はいつまで栽培が続けられるか限界があろう。そうはいっても面積が増えている産地もある。そういう産地は労働のつらさは変わらなくても、収益が非常に高い。うんと儲かれば、つらい労働なにするものぞ!なのである。

 

●人にやさしく、収益を増大するには

つらい労働が軽減されるか、うんと儲かるか、あるいはその両方が適えられるとすればイチゴのハウス栽培は今どきまれに見るオイシイ施設園芸なのである。土耕栽培でも、育苗栽培技術の向上などで収益の飛躍的向上は可能である。つらい労働は少なくはならないが、パートを使って楽をすることもでき るだろう。ただし根本的には腰を曲げる作業そのも のを少なくしなければならないだろう。

立体的な苗取り(ナイヤガラなど)、棚育苗などで育苗までは労働は楽になり得る。しかし、栽培床を腰の高さまで高くすることは、少量培土法などでもなかなか難しいことである。いっそ養液栽培にして

 

 

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しまったら、と多くの人が考えるのももっともなことである。

 

●養液栽培の可能性

すでにNFTなど数種の養液栽培法がイチゴでも 実用化している。養液栽培の培地は軽くて、少量でよいから、90センチくらいの腰の高さに栽培床をセッ トすることは簡単にできる。栽培の方法もそれほど難しくはなく、収量も概ね多収である。ただ初期投資(設備費)は高く、10アール当たり安くても300 ~500万円は覚悟しなければならないだろう。な んとかこの設備費を安くして、多くの農家が装置を導入できるよう設備メーカーは頑張ってもらいたいものである(筆者も安くて取扱いがやさしい装置を考えている)・イチゴの養液栽培、したがって軽労働 化と多収の両立は今のところこの安い養液栽培装置の開発にかかっているといって過言ではなかろう。

 

●養液栽培の特性と管理のコツ

養液栽培の管理方法は各メーカーがそれぞれマニュアルを作成して、直接指導されているのでそれにゆだねることとしてここではその他の栽培の留意点を述べてみたい。

 

(1)地温が下がる

 

土を離れ、高設のベッドで養液栽培を行うと根の温度は土耕に比べて必ず低下する。地温が下がれば 冬期生育の不良から収量品質が下がるのは当然である。水耕液を暖めたり、根圏に温湯管や温床線を通したりすることも行われているが、これがまた設備費と運転経費を高騰させる。ここはハウスの気温を上げ、根温、地上部温ともに上げてやることが早道であろう。土耕栽培でも暖房器の導入はかなり進んで いる現状ではそう困難なことではないだろう。生育に応じて8℃~10℃に夜温を保てば十分であろう。

 

 

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(2)炭酸ガスが不足しやすい

 

イチゴはキュウリやトマトのように多量の炭酸ガ スが必要なものではないが、不足すれば収量や質が 落ちることは当然である。土耕でも炭酸ガス施用の 効果が近年再確認されているが、養液栽培では一層 必要性がある。それはハウス土壌に堆肥を入れる必要性が無くなることと関係がある。土耕では土づく りのために年間3トン以上もの堆肥が投入されるが、 この有機物は徐々に分解して炭酸ガスとなり、ハウ ス内の濃度を上昇させている。ハウスの換気前には この炭酸ガスが同化作用におおいに役立っているのであるが、養液栽培に堆肥を入れる人はいない。炭酸ガスが不足する所以である。いずれかの炭酸ガス 発生装置を併設することが望ましいのである。

 

(3)湿度は下がる

 

水を使う溶液栽培であるが、ハウス内湿度は必ず低下する。これも土を用いないため土壌への灌水が 行われないからである。 湿度が下がれば、灰色カビ病などが減って好まし いのは事実であるが、これも程度問題である。空気が乾き過ぎて生育が良好な野菜はまず無い。キュウ リやナスほどではないにしてもある程度の湿度はイチゴにも必要なのである。多湿が困るのは昼でも葉に露がたまってそれによる病気の多発である。露の着かない程度の湿度で止めれば湿度は高い方が生育は良い・ 高設のベッドの下の土壌は多少の湿気があった方 がよい。清潔を保つためのフィルムの全面マルチなどは止めて、不織布を敷くくらいに止め、時どきそれに 散水して空中湿度を上げるなどの配慮があってよい・ 栽培のプロである農家は、品種が変われば栽培法 が変わる、などの細かい技術を駆使して良い栽培を やっているはずである。土耕から養液栽培への変化 は、それ以上の大転換であるから、新しい作物の栽培を始めるくらいの気持ちで正しい養液栽培を実施 してもらいたいものである。

 

 

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堆肥の投入 緑肥すき込みも効果

 

 

●堆肥の必要量

野菜を作るのに、堆肥が必要なことは常識だが、 一年間にどのくらいの品を入れればよいのであろう か。 堆肥は野菜の生育を良くしたり、品質を上げたり、 病虫害の抵抗力をつけたりするために効果があるの だが、土の中ではどんどん分解して少なくなって行 く。減少量は年間に乾物で1トン(10アール当たり)に もなると考えられる。この乾物1トンという量は生ワ ラでは10アールでとれる量より多く、堆肥3トン分にも なる。分解してなくなる量が堆肥3トン分であるから、 土をより良くするにはそれ以上の量の堆肥が必要だ ともいえるだろう。

 

●良い堆肥、悪い堆肥

家畜の糞尿やモミガラ、生ワラなどの未熟なもの は良い唯肥とはいえない。土の中に入ってから急激 に分解するので野菜に害を与えることもある。十分 に完熟してから入れるか、入れてから一ヵ月以上 経って急な分解が収まってから播種や定植をする必要がある。ワラや麦ワラ、パーク、モミガラなどの 完熟したものを入れるのが一番良いのであるが、材料や労力の不足から、とても大面積の野菜畑に十分入れることは困難になってきている。

 

●畑で堆肥を作る

堆肥は入手しにくいと言っても、野菜作りにはど

 

 

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うしても必要なのだから、野菜畑の休閑期を利用して堆肥のもとを作ることを考えてもいいと思う。幸いなことに暖地のハウスでは盛夏に野菜作りはできないし、寒冷地の冬には野菜は畑にない。 したがって、この時期を利用して、夏はトウモロ コシやソルゴーなど、冬は麦類やレンゲなどを作ると、5~7トンの生草がとれる。これは堆肥にして2 ~3トンの有機物に相当するから、ほぼ必要量を満たしている。これらを畑にすき込んで一ヵ月後くらいに作付けをすれば、かなりの効果が出る。水田にして水稲を植え、生草で刈り取る方法をとれば連作障害の防止にもなる。「野菜畑で堆肥を作る」…労力や 堆肥の不足する現代の野菜作りの一つのやり方では ないだろうか。

 

 

 

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土壌消毒のあとには完熟堆肥を

 

ビニールハウスの野菜も、連作を重ねると生育が 不良になるのが普通である。いわゆる連作障害である。

連作障害の一番多い原因は土壌病害であるから、 そのまま栽培を続けるためには病害の対策をたてね ばならない。病害対策には

○薬剤による消毒

○太陽熱消毒

○蒸気消毒

○耐病性品種

○接ぎ木栽培

などがあり、クロールピクリン等による土壌消毒が よく行われる。 薬剤による土壌消毒は、十分な薬品と適切な消毒 法で十分に効果が出るように実施する必要があることはいうまでもないが、ここに困った問題がある。 消毒は完全にやればやるほど、病原菌も死滅するが その他のもろもろの微生物も死んでしまう。もろもろの菌の中には、肥料を分解してくれる菌もいれば、 根を病気から守ってくれる菌もいる。それらが死ぬことにより、アンモニアの集積害(硝酸態窒素に分解する菌が少ないので)や、土壌病害が逆に多発するような予期せぬ事態を招くことがある。折角の消毒がアダになるわけである。 こんなことにならないようにするには、消毒、ガス抜きのあとに無病の完熟堆肥を少量(200~300 キロ/10アール)散布混入することである。10日もす れば有用菌は復活して安心して栽培ができるようになる。 消毒後の完熟堆肥の施用は、ハウスの土壌管理の 常識と思ってもらいたい。

 

 

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土壌のPH管理

 

野菜類を栽培する場合、土のPHが低過ぎると出来がよくないことは良く知られている。いわゆる酸性害である。酸性害は野菜の種類によって異なり、ホウレンソウ、タマネギなどは特に弱く、ダイコンや イチゴは強いことが知られている。 土は、酸性になりやすい肥料(硫安や硫加、過石 など)を毎年多施用し、雨が多い時にPHが下がりや すいのだが、酸性になりにくい肥料(尿素やヨウリン、硝酸カリ)を使い、雨の少ない条件(ハウスや ガラス室)ではPHが下がりにくいのである。 酸性になった土は、消石灰、タンカル、苦土石灰 等を与えるとPHが上がって酸性が中和されることは ご存知のとおりである。 さて、酸性害は、激しい場合は全く商品になるものが収穫できないくらいひどいものであるが、適切な石灰施用で立派な収穫を得ることができる。日本は雨が多く、酸性害が多い国だったのだが、近年は 酸性になりにくい肥料が多くなったこと、石灰を多く施用するようになったことにより中性やアルカリ性の土も多く見られる。ことに野菜のハウス栽培では、雨が入らないこともあってPHが高い場合も少な くない。

PHが高いことは野菜にとってよいことなのであろ うか。答えは「ノー」である。酸性と同じようにア ルカリ性も度が過ぎればよくない。特にダイコンや イチゴのように、酸性に強い野菜がアルカリ性の土に栽培されると生育障害を来たしてしまう。多くは ほう素、亜鉛、マンガン、鉄などの欠乏だが、枯死する場合もあるので油断できない。 アルカリ性になり過ぎた土は、石灰の施用を控え、 先に述べた硫安や過石を施用することにより回復さ せることができるのである。

 

 

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PHを上げない石灰の施し方

 

施設内の土壌PHが適正でないと、野菜の生育が順調でないことは良く知られている。野菜の種類でも 適性PHは異なり、ホウレンソウやタマネギはややア ルカリ側に、ダイコンやイチゴはやや酸性側に好適 PHがある。 PHはアルカリ資材(石灰の場合が多い)の施用量 の多少で上下するが、それ以外の原因については以外と知られていない。雨や潅水が多いと土壌中のアルカリ分を流出させるので、PHは下がるし、硫安や 過石のような硫酸根の多いものの施用でもPHは下がる。

 

ハウス土壌のPH

ハウスの土壌は雨の流入が少ないし、硫酸根の肥料の使用が少ない上に石灰は十分施されるのでPHが 上昇することが多い。PHが上がり過ぎるとマンガン、 亜鉛、ホウ素、鉄などが不溶化して欠乏しやすくな る。葉にクロロシス(黄化や白化すること)が出るのがこれらの欠乏症であるが、クロロシスは出ないまでも、生育が不良になって知らぬ間に収量に影響 していることも多い。

 

●PHの調節法

PHを下げるには石灰の施用量を少なくすればよいはずであるが、野菜の場合は石灰欠乏も出やすいの で石灰を減らしたくはない。そこで「PHを上げない 石灰の施し方」が必要になる。 その方法の第一は硫安や過石等の出の下がる肥料 を使うことである。一昔前は土壌を酸性化させるということで嫌われていたこれらの肥料は、アルカリ

 

 

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化しやすいハウス土壌では、その肥効とともにPHの 調節剤としてあらためて見直されてよい。 第二にPHを上げない石灰質肥料の利用である。そんな石灰があるのだろうか、という人がいるかも知 れないが、それがちゃんとあるのである。硫酸カル シウム(石膏)がそれである。10アールに1000キログラムも与えてもPHは上がることはない。むしろ下がり気味となる。 PHの上昇は、連作障害の一つといってもよいほど 野菜の生育を悪くすることがある。いずれかの方法で適正に保ってもらいたい。

 

 

 

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堆肥とリン酸のやり方 経済性考え溝施用

 

野菜の栽培もかなり機械化されてきた。特に播種 や定植前の耕起、施肥、畦立て、マルチあたりまではほとんど機械化され、人力でやる部分は少ないようである。このことは重労働がなくなり、省力となるから大変よいことなのだが、困った問題も生じている。 堆肥や肥料のやり方がそれである。大型トラク ターで耕うん、施肥、畦立てを行う場合、堆肥や肥料は耕うん前に全面に散布するのが普通である。その後ロータリーで耕うんするから堆肥と肥料は圃場 の全面全層に混和されることになる。 堆肥は土と混ぜる割合が多いほど生育を良好にするから、全面全層に薄く混ぜてしまうと効果が少なくなる。効果を上げようと思えば多量の堆肥が必要となる。もう一つ困ったことには、薄く混ぜられた堆肥は早く分解してなくなってしまうことである。 堆肥不足のこのごろ、なんとかしなければならない問題である。 肥料の中でも、リン酸は同様に薄く混ぜられると 効き方が悪くなり、なおかつ土に吸着して効かなくなる割合も増えてくる。 このような機械化にともなう堆肥とリン酸の不経済さを解消するには、堆肥とリン酸を識施用するとよい。そうすれば堆肥もリン酸も節約しながら効果を出すことができる。 畑やハウスに全面に作付けされるような小型の野菜は、このような施用法ができないので、比較的浅い土に堆肥やリン酸を混ぜるようにすれば同様な効果が期待できる。

 

 

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リン酸過剰の八ウスでもリン酸施肥が必要?

 

「土壌分析の結果リン酸が過剰気味だといわれました。それで次の作のメロンをリン酸肥料無しで定植したのですが生育がよくないような気がします。 リン酸過剰の土壌では、リン酸施肥の必要が無いのでしょうか」 北海道のKさんからこんな質問が寄せられた。同じような疑問をお持ちの農家も多いと思うので、すこし詳しく解説してみよう。

 

●野菜の連作はリン酸の過剰になりやすい

野菜はリン酸肥料がよく効くものが多い。したがって新しいハウスでは、チッ素肥料の何倍もリン酸を施肥することが多くみられる。そのことは別に 間違っているわけではなく、もっと多く施肥しても いいのに、と思う場合さえある。問題は何年か経つてからである。野菜のリン酸の吸収量はチッ素の五分の一ぐらいであるから、多く与えられたリン酸の 大部分は吸われないで土の中に残って行く(ちなみに、リン酸肥料は雨や潅水で流亡することはほとんどない)。土質や施肥量によっても異なるが、数年も すると土壌中にリン酸の集積が進み、チッ素と同量 か、それ以下の施肥量でも十分生育するようになるのであるが、その時期にリン酸の施肥量を減らさない人が多い。したがって、さらに二、三年経過するとリン酸過剰といわれるようになるのである。

 

●リン酸過剰の症状は

分析の結果リン酸が多いといわれても、外見的に生育の症状があらわれることはまずない。生育が不良になるだけである。ただし筆者らの研究によると、

 

 

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極端にリン酸が過剰になると下葉が黄色くなり葉に黄色やかっ色の斑点が出る。リン酸を吸収同化するために多量の苦土(マグネシウム)が必要なため苦土欠になるのである。そうなったら手おくれなのでそれ以前になんらかの方法を講じる必要があるのである。

 

●リン酸は土壌中にどれだけ必要か

土壌中のリン酸の集積度合は有効リン酸(トル オーグ法による)であらわされるのが普通であるが、20~50ミリグラムあればチッ素と同じぐらいの施肥量 に減らしてもよい。100ミリグラム以上になったら過剰 障害の対策が必要となってくる。

 

●リン酸過剰土壌のリン酸施肥

リン酸が過剰なのであるからリン酸肥料をやらな いと考えるのが常識であろう。事実そのように指導されていることも多い。ところが不思議なことに過剰土壌でもリン酸を施肥すると生育がさらに良くな ることが多い。これはいったいどうしたことなのだ

 

 

 

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ろうか。リン酸が効くからさらにリン酸をやる。すると土壌はもっとリン酸過剰になる。まことに悪循環である。ハウスのリン酸施肥のやり方は、この際 根本的に考え直す必要がある。

 

●合理的なリン酸施肥

筆者の考えでは、リン酸を十分効かせながら土壌のリン酸過剰を防ぐには、今の施肥法ではだめだと思う。それには野菜のリン酸に対する生育反応と土壌中のリン酸の動きを良く知らなければならない。

まず第一にどんな野菜でもリン酸はより若い、早い時期によく効くことを理解する必要がある。言い替えると若い時期はリン酸が高濃度でなければならない。前に述べたリン酸過剰の土壌でもリン酸施肥 が効果があるのはこのことに他ならない。若い野菜にとってはかなり高濃度でも過剰ではないのである。 生育がかなり進むとリン酸はそれほど必要でないのに高濃度だから障害となるのである。同じハウス土壌で生育初期は高濃度、後期には低濃度となるような管理はできるものであろうか。今の全面全層に施肥するやり方では、仮に元肥重点にやったとしてもうまくはいかないであろう。 全くやり方を変えてリン酸だけを植え溝施肥、植え穴施肥にしたらどうだろう。ハウス土壌のごく一部のみに与えることになるから、リン酸濃度は少量 の施肥でも高濃度にできる。しかも若い間は根の広 がりも狭いから不足することはない。生育が進むと 施肥してない周辺に根が広がり、リン酸の過剰は防げる。施用したリン酸が少ないから連作が進んでも 過剰集積は防げる。一石三烏の施肥法ではあるまい か。 以上の筆者の考えで、リン酸の施肥法を改善している産地は多い。リン酸肥料の原石は世界的に少なく、いずれは不足する。肥料の節約の意味でも、こ の施肥法は意義あるものとなろう。

 

 

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石灰欠乏症 地温下げ、灌水にも注意

 

良くしまった大きなハクサイを、いざ、すきやきに入れようと包丁で真っ二つに切ったら、中が真っ黒に腐っていた……。 最近こんな話をよく聞く。以前はそれほどでもな かったのに、なぜか。収穫してから食卓にのぼるまで、外見上は上等なハクサイに見えるだけに、始末に困る障害で、これが野菜の石灰欠乏症なのである。 ハクサイに限らず、レタス、イチゴ、トマト、キュ ウリなど多くの野菜で石灰欠乏による障害が出る。 野菜はたくさん石灰を必要とする作物だから、石灰欠乏症も発生しやすいのである。 ハクサイは球の芯が黒く腐るのでアンコ、レタス やイチゴは若い葉の先端が枯れるので縁腐れ、トマトは果実の尻(先端)が腐るので尻腐れとも呼ばれ ている。なぜ、こんなに石灰欠乏症が出やすぐなったかは、石灰欠乏の現れる仕組みからみていかないと分からない。 石灰欠乏は土の中に石灰が少ない時には当然出やすいのだが、野菜園やハウスの土壌を調べてみると 石灰が少な過ぎることはまれで、むしろ多過ぎることが多い。それなのに石灰欠乏症が出るのは、たくさんある石灰を根が吸収できないからなのである。 石灰の吸収を妨げる原因は、

①気温・地温が高過ぎる

②土が乾き過ぎる

③肥料、特にチッ素やカリが多過ぎる

④根が弱っている

⑤堆肥が少ない

⑥生育が早過ぎる  など。

近年これらの原因を作り出す無理な栽培が多く

 

 

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なったので障害が増えたのである。これらの原因は たった一つでも欠乏症になる場合もある。いくつか 組み合わさってひどくなることが多いようだ。高温 で乾燥する時期に発生が多いのでマルチ等で地温を下げ潅水を行い、肥料を急にたくさん効かせないで ゆっくり育てるのがコツである。堆肥を十分入れて 根が張る良い土作りを日ごろから注意しておくとよ い。

 

 

 

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七難隠すマルチ 地温調節、肥料保持に効果

 

ポリやビニールがないころからマルチはあった。 トマトやナスを植えた畝にワラや刈り草を敷きつめていたのがそれだ。農業用フィルムが普及している 今でも、まだこの方法のほうがよい場合があるのだが、労力や材料の不足から、家庭菜園か一部の栽培 でしか見かけることはなくなった。現在使われてい るのは農業用ポリエチレンフィルム(農ポリ)が一 番多く、農ビや農サクビ、そのほかのフィルムがたまに用いられている。農ポリは0.02~0.03ミリ の薄いもので、透明と黒が普通だが、シルバー、緑、 紫、黒にシルバーのストライプ、白黒ダブルマルチ (表が白で裏が黒)など、目的と用途によって使い分けられている。 マルチをすると生育にいろいろな効果がある。野菜類ではハウスでも露地でも使われているが、共通した生育への効果をあげてみると次のようである。

①地温の調節

寒い時期に地温を少しでも上げてやれば生育が進むが、透明のものが効果が大きく、ついで緑、紫、 シルバー、黒の順になる。逆に暑い時期に地温を下げる効果があるのは、白黒ダブル、黒、シルバーな どのフィルムである。

②土の保護

土を軟らかいまま保存し生育を良くする。マルチの色はどれでも同じである。

③土中水分の調節

大雨でも水ぴたしになることが少なく、また乾燥

 

 

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時でも乾害の発生を遅くする。

④肥料の保持

土中の肥料が流れにくく、土の酸性化も遅くなる。

⑤雑草の防止

白黒やシルバー、黒では雑草が生えない。緑や紫 でも少なくなるが、透明では効果がない。

⑥病虫害の回避

雨や潅水の水で、土を葉にはね上げないので病気が少なく、シルバーやストライプでは虫(アブラム シなど)を回避する。アブラムシで移るウイルス病 も少なくなる。 以上のようにマルチにはたくさんの効果があるの で、間違いのない使い方をして役立てることである。

 

 

 

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